化学療法
(「薬物療法」、「抗がん剤治療」ともいいます)

すい臓がん治療では、ステージ0以外の患者さんは、ほとんどの場合、化学療法を受けることになります。個人差はありますが、副作用も現れますので、医師の説明をしっかりと聞いて、どのような副作用がどのタイミングで出るのかを、あらかじめ確認しておいたほうがよいでしょう。
薬物を選択する際には、全身の状態や年齢などのほかに、患者さんのライフスタイルや個人的な希望などを考慮しながら決める必要があります。
納得のいくまで医師とよく相談することが大切です。

「主な化学療法」と「化学療法・化学放射線療法の流れ」を図表にまとめましたので、これらをもとに化学療法について説明します。

すい臓がんの主な化学療法

すい臓がんの主な化学療法
『膵がん診療ガイドライン2019の解説』(金原出版)および
『もっと知ってほしいすい臓がんのこと』(NPO法人キャンサーネットジャパン)を参考に作成、
『膵癌診療ガイドライン2022年版』日本膵臓学会 膵癌診療ガイドライン改訂委員会編(金原出版)を参考に更新

すい臓がんの化学療法・化学放射線療法の流れ
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すい臓がんの化学療法・化学放射線療法の流れ
すい臓がんの化学療法・化学放射線療法の流れ
『膵がん診療ガイドライン2019の解説』(金原出版)および
『もっと知ってほしいすい臓がんのこと』(NPO法人キャンサーネットジャパン)を参考に作成、
『膵癌診療ガイドライン2022年版』日本膵臓学会 膵癌診療ガイドライン改訂委員会編(金原出版)を参考に更新

切除可能な患者さん

腫瘍のサイズ、位置などから手術で腫瘍を切除することが治療の目的となる患者さんです
(ステージI、またはステージII)

切除可能な患者さん

術前化学療法

手術前に行う化学療法です。ステージIと、切除可能なステージIIの患者さんは、ゲムシタビンとS-1を併用するGS療法でがん細胞を減らしたあとに手術をします。GS療法は、ゲムシタビンを1日目と8日目に点滴投与、S-1を1~14日間服用した後、7日間休薬し3週間で1コース。これを2コース行います。ステージI、ステージIIの患者さんで手術可能と判断された人が対象となります。

術後化学療法

手術後に行う化学療法です。ステージIとステージIIで手術を受けた患者さんに、手術後の化学療法は必須となります。術後の化学療法は、手術でがんを取り除いても体に残っているかもしれない微小ながんをたたき、再発のリスクを減らす治療法です。内服薬のS-1を1日2回4週間服用、2週間休薬する6週間で1コース、これを4コース行います(S-1単独療法)。患者さんの状態によってはゲムシタビン単独療法を行います。

局所進行で切除不能の患者さん

ほかの臓器への転移はないと認められるものの、がんが周囲の重要な血管を巻き込んでいるため、手術で取り除くことが難しい状態の患者さんです(ステージIII)

一次治療

図表「すい臓がんの化学療法・化学放射線療法の流れ」図表「すい臓がんの主な化学療法」をご覧ください。

一次治療 化学療法の説明

切除不能局所進行がんの患者さんの中で、化学放射線療法ではなく、化学療法を選択した患者さんは、FOLFIRINOX療法、ゲムシタビンとナブパクリタキセル併用療法、ゲムシタビン単独療法、S-1単独療法の4種類の化学療法の中から1つを選択します。

二次治療

一次治療の種類によって、フルオロウラシル関連レジメンまたはゲムシタビン関連レジメンを選択することになります。特殊な遺伝子の異常が認められる患者さんの場合は、ペムブロリズマブ単独療法(MSI-HighまたはTMB-Highの場合)、エヌトレクチニブまたはラロトレクチニブ単独療法(NTRK融合遺伝子陽性の場合)が適応となる場合もあります。なお、生殖細胞系列BRCA1/2の病的バリアント*が検出されている場合には、オラパリブによる維持療法が治療選択肢のひとつになります。
*膵がんは以前より、家族性膵がん〔第一度近親者(親、兄弟姉妹、子)に膵がんが2人以上〕という概念が知られています。このような定義に当てはまる膵がん患者さんにおいては10~20%程度に生殖細胞系列病的バリアントという遺伝子変異が認められることが報告されており、BRCA2は最も高い頻度で検出される遺伝子変異で、膵がん全体の約5%で認められています。

局所進行で切除不能の患者さん

ほかの臓器に転移がある患者さん(遠隔転移のある患者さん)

ほかの臓器にがんが広がっている状態の患者さんです(ステージIV)

一次治療

ほかの臓器に転移のある患者さんは、FOLFIRINOX療法、ゲムシタビンとナブパクリタキセル併用療法のいずれかを一次治療として選択します。
FOLFIRINOX療法とゲムシタビンとナブパクリタキセル併用療法の化学療法を受けるのが難しい場合(全身状態、体力、併存疾患などの条件により)は、ゲムシタビン単独療法、内服薬のS-1単剤療法のいずれかを選択します。

一次治療 化学療法の説明
  • FOLFIRINOX療法

    4つの薬剤を組み合わせる化学療法です。イリノテカン(180mg/平方メートル)、オキサリプラチン(85mg/平方メートル)、レボホリナートカルシウム(200mg/平方メートル)を合わせて4時間かけて点滴します。その後5-FU(400mg/平方メートル)を急速(ボーラス)投与し、同じく5-FU(2400mg/平方メートル)を46時間持続静注(薬を注入する中心静脈カテーテル(ポート)を鎖骨のあたりに埋め込み、そこに携帯型精密輸液ポンプをつなげて、持続的に薬を投与し続ける)します。最近では、より副作用の低い治療方法として、投与量減量やボーラス投与省略など、レジメンを一部変更したmodified FOLFIRINOXも登場しています。

  • ゲムシタビンとナブパクリタキセル併用療法

    ゲムシタビン(1000mg/平方メートル)とナブパクリタキセル(125mg/平方メートル)を1週間に1回、3週間投与し、1週間休薬して1コース。これを繰り返します。

  • ゲムシタビン単独療法

    週1回、ゲムシタビン(1000mg/平方メートル)を30分かけての点滴投与を3週間行った後、1週間休薬する4週間で1コース。つまり、1日目、8日目、15日目にゲムシタビンの投与を受け、22日目は休薬するパターンを繰り返します。

  • S-1単独療法

    内服薬のS-1を1日2回4週間服用し、2週間休薬の6週間で1コースとなります。薬は身長と体重から割り出される体表面積に応じ、1回40~60mg服用します。

二次治療

一次治療での化学療法の効果がなくなってきた際には、薬を変更して治療を続けます。これを二次治療といいます。二次治療は、基本的に一次治療で使用した薬以外を選択します。またがん組織の特殊な遺伝子変異を調べ、その結果によって薬を選択することもあります。

一次治療での化学療法の効果がなくなってきた際には、薬を変更して治療を続けます。これを二次治療といいます。二次治療は、基本的に一次治療で使用した薬以外を選択します。またがん組織の特殊な遺伝子変異を調べ、その結果によって薬を選択することもあります。
一次治療でゲムシタビンを含む治療(上記のゲムシタビンとナブパクリタキセル併用療法、ゲムシタビン単独療法、ゲムシタビンとエルロチニブの併用療法)を受けていた患者さんは、フルオロウラシル関連レジメン(イリノテカンリポソーム製剤、5-FU、レボホリナートカルシウム併用療法を含む)が標準療法になります。全身状態によっては、FOLFIRINOX療法かS-1単独療法を選択する場合もあります。
一次治療でFOLFIRINOX療法かS-1単独療法の治療を受けていた患者さんは、ゲムシタビンとナブパクリタキセル併用療法または、ゲムシタビン単独療法が選択肢になります。

二次治療 化学療法の説明
  • イリノテカンリポソーム製剤、5-FU、レボホリナートカルシウム併用療法

    イリノテカンリポソーム製剤(70 mg/平方メートルを90分投与)、5-FU(2400mg/平方メートルを46時間持続投与)、レボホリナートカルシウム(200mg/平方メートルを2時間投与)の併用療法で、2週間おきの点滴になります。

  • ゲムシタビンとナブパクリタキセル併用療法または、ゲムシタビン単独療法
    • ゲムシタビンとナブパクリタキセル併用療法

      ゲムシタビン(1000mg/平方メートル)とナブパクリタキセル(125mg/平方メートル)を1週間に1回、3週間投与し、1週間休薬して1コース。これを繰り返します。

    • ゲムシタビン単独療法

      週1回、ゲムシタビン(1000mg/平方メートル)を30分かけての点滴投与を3週間行った後、1週間休薬する4週間で1コース。つまり、1日目、8日目、15日目にゲムシタビンの投与を受け、22日目は休薬するパターンを繰り返します。

マイクロサテライト不安定性(MSI-High)の高いがんの患者さん

ペムブロリズマブを1回200mg、3週間に1回、点滴投与します。

NTRK(エヌトラック)融合遺伝子陽性の患者さん

エヌトレクチニブの場合:1回600mgを1日1回、服用します。
ラロトレクチニブの場合:1回100mgを1日2回、服用します。

腫瘍遺伝子変異量の高い(TMB-High)がんの患者さん

ペムブロリズマブを1回200mg、3週間に1回、点滴投与します。

次のページでは、「化学療法の副作用」についてご紹介いたします。