治療後の再発と転移
再発とは、手術で取りきれたように見えたがん、治療によって一度は画像診断などで見えなくなったがんが、再度すい臓やほかの臓器に現れることをいいます。
また、転移とは、がん細胞が血液やリンパ液の流れに乗って他の臓器に広がることをいいます。
すい臓がんは、再発・転移しやすいがんといわれています。それは、すい臓がからだの奥深くにあって早期のすい臓がんを発見しにくいことや、すい臓が多くの消化器や重要なリンパ節、重要な動脈に取り巻かれていて完全に切除しにくいこと、すい臓がんが早期から転移を起こしやすいためです。特に肝臓、腹膜、肺、リンパ節、骨などへの転移が多いとされています。
再発後の治療
- 術後補助化学療法としてS-1を服用中または終了直後に再発・転移した場合、図表「すい臓がんの化学療法・化学放射線療法の流れ」にあるFOLFIRINOX療法、ゲムシタビンとナブパクリタキセル併用療法、ゲムシタビン単独療法のどれかに切り替えます。
- 術後補助化学療法としてのS-1が終了後、長期間経過して再発・転移した場合 FOLFIRINOX療法、ゲムシタビンとナブパクリタキセル併用療法、ゲムシタビン単独療法、S-1単独療法の中から、体力、病状、患者さんの希望などにより、治療を選択します。
コラム がん遺伝子パネル検査とがん遺伝子検査:二次治療の選択肢の検討
少数の遺伝子を調べるがん遺伝子検査や多数の遺伝子を同時に調べるがん遺伝子パネル検査*1を受け、その結果によって次の治療法を選ぶ方法もあります。
がん遺伝子パネル検査などで、マイクロサテライト不安定性陽性(MSI-High)または腫瘍遺伝子変異量高値(TMB-High)であることが判明すると、免疫チェックポイント阻害薬のペムブロリズマブ単独療法が選択肢になります。MSI-Highの場合は、大腸がんや子宮体がんなどにかかりやすいリンチ症候群の可能性もあるため、治療を検討すると同時に、リンチ症候群の有無も調べ、場合によっては遺伝カウンセリングを受ける必要があります。またがん遺伝子パネル検査で、がん細胞の増殖を促進すると言われる「NTRK(エヌトラック)融合遺伝子*2」が見つかった場合、エヌトレクチニブまたはラロトレクチニブによる治療を検討します。ただし、すい臓がん患者さんで、NTRK融合遺伝子陽性の人は1%未満です。そのほかの遺伝子の異常が見つかったときには、臨床試験への参加の可否を担当の先生に確認してみるとよいでしょう。
*1がんの組織を、遺伝子解析装置を使って遺伝子の異常の有無を調べます。公的医療保険で受けられるがん遺伝子パネル検査には、2020年4月時点では、114個の遺伝子異常を調べる「オンコガイド(OncoGuide)NCCオンコパネル」、324個の遺伝子異常を調べる「ファンデーションワン(FoundationOne)CDx がんゲノムプロファイル」の2種類があります。NTRK 融合遺伝子の有無を調べるには、「ファンデーションワンCDx がんゲノムプロファイル」検査を受けます。ただし、これらのがん遺伝子パネル検査によって治療法が見つかる患者さんは、すべてのがん種を合わせても10%程度、すい臓がんではさらに少ないとされています。検査に同意してから結果が出るまでには、4~6週間かかるため、その間は別の化学療法による治療を検討することになります。
また、この検査は、がんゲノム医療中核拠点病院か同拠点病院、同連携病院※でのみ受けられる検査です。他の病院で治療を受けている患者さんが、この検査を希望する場合は、担当の先生と相談してみましょう。
※がんゲノム医療中核拠点病院・拠点病院・連携病院の一覧表
https://www.mhlw.go.jp/content/000928433.pdf
*2NTRK(エヌトラック)融合遺伝子とは、正常なNTRK遺伝子の一部が、何らかの原因で他の遺伝子と融合した、異常な遺伝子のことをいいます。
コラム 「標準治療」と、その科学的根拠を示す「臨床試験」について
標準治療とは?
標準治療とは、科学的な根拠に基づいた観点(臨床試験によって、有効性と安全性が証明された)で、現在使用できる最良の治療法であることが示され、ある状態の患者さんに行われることが推奨される治療です。
医療においては、「最先端の治療」が最も優れているわけではありません。
「最先端の治療」は開発中の試験的な治療です。「最先端の治療」の有効性と安全性を評価するために、臨床試験(治験)が行われています。
臨床試験(治験)とは?
新しい薬や治療法の開発には、有効性と安全性を明らかにする必要があります。それを科学的に調べるのが臨床試験です。未来の患者さんに貢献することにもつながります。
すい臓がんでも、現在の標準治療より、より効果の高い治療法確立のために、複数の臨床試験が実施されています。既存の化学療法の効果が見られなくなった患者さんでも、体力的に問題がなければ、臨床試験が選択肢になる場合があります。
臨床試験を探す
実施されている臨床試験で、自分が受けられる試験があるかどうかについては、まず担当医師にお尋ねください。
自分で探す際は、
国立がん研究センター がん情報サービス「がんの臨床試験を探す」(https://ganjoho.jp/public/dia_tre/clinical_trial/search2.html)
で検索することもできます。
臨床試験の注意点
- 参加基準に自分が当てはまらなければ参加できません
- 参加するメリットを担当医師に確認しましょう
- 治療薬候補と現在の標準治療を比較する試験では、どちらになるかはコンピュータによるくじ引きで決まります。新しい治療を受けられない場合があることを理解しておかなければなりません
- 臨床試験で評価される治療薬には、想定外の副作用があるかもしれないことも、あらかじめ理解しておきましょう